実現半分散とは:上昇・下落方向のボラティリティを測る
正と負の実現半分散で高頻度の実現分散を分解する方法を、ベーシスポイントの計算例とともに解説します。方向別変動をVaRや予測と混同しないための注意点も紹介します。
このガイドの内容実現分散とリターンの符号から考える
短い要約
実現半分散は、高頻度リターンの二乗和を正のリターン成分と負のリターン成分に分けます。同じリターン系列を使えば、両者を足した値は実現分散に戻ります。この方向別の分解は非対称性の記述やボラティリティ研究に役立つことがありますが、それ自体は損失確率でも、Value-at-Riskの推定値でも、予測でもありません。
実現分散とリターンの符号から考える
一定の区間で観測した日中対数リターンを \(r_i\) とすると、実現分散はリターンの二乗和 \(RV=\sum_i r_i^2\) です。二乗するため上昇も下落も正の値になり、大きな変動ほど大きく寄与します。この統計量は区間中に蓄積した変動を測りますが、その変動が上昇・下落のどちらから生じたかは示しません。
実現半分散では、二乗する前にリターンの符号を保ちます。正の成分にはゼロを上回るリターンの二乗を、負の成分にはゼロを下回るリターンの二乗を集めます。同一の観測値と定義を使えば、両者の合計は実現分散になります。ゼロリターンはどちらにも寄与しません。これは会計上の恒等式であり、各成分が別個の因果的なリスク源であることを示すものではありません。
正と負の実現半分散を定義する
リターン \(r_1,\ldots,r_n\) について、次のように定義します。
\[ RS^+ = \sum_{i=1}^{n} r_i^2\mathbf{1}(r_i>0), \qquad RS^- = \sum_{i=1}^{n} r_i^2\mathbf{1}(r_i<0), \]
ここで \(\mathbf{1}(\cdot)\) は条件が真なら1、そうでなければ0です。したがって
\[ RV = \sum_{i=1}^{n}r_i^2 = RS^+ + RS^-. \]
論文によって記号や上付き文字が異なるため、報告ではどちらが正のリターン、どちらが負のリターンを表すかを明記します。上の式はゼロを基準とする非中心化リターンを使い、標本平均、目標リターン、無リスク金利を差し引きません。目標値や平均を基準に計算する標本半分散は別の統計量です。
単位はリターン単位の二乗です。リターンをベーシスポイントで表せば各成分は bp²、10進対数リターンなら10進リターンの二乗です。パーセント表示からベーシスポイント表示に変えると、二乗指標の数値は10,000倍になります。数値と単位を併記してください。
6つのリターンで計算する
仮想の取引時間帯に、ベーシスポイント単位で次の6つのリターンがあったとします。
\[ (2,-1,3,-4,0,-2)\;\text{bp}. \]
正のリターンの寄与は \(2^2+3^2=13\,\text{bp}^2\) です。負のリターンの寄与は \((-1)^2+(-4)^2+(-2)^2=21\,\text{bp}^2\) です。ゼロリターンの寄与はありません。よって実現分散は
\[ RV=13+21=34\,\text{bp}^2 \]
です。
この小さな例では負の成分が \(21/34\)、約61.8%、正の成分が約38.2%です。これは作成した合計に占める比率であり、将来の損失確率でも、長期的に安定した非対称性の推定でもありません。リターンが6つだけでは推論には少なすぎます。定義と計算を確かめるための例にすぎません。
実現ボラティリティの解説では、符号分解前の二乗リターン合計を扱います。バイパワー変動の解説は、まれなジャンプがある場合の連続変動の推定という別の問いを扱います。方向別半分散とジャンプに頑健な変動指標は併用して分析できますが、一方が他方の代わりになるわけではありません。
連続変動と符号付きジャンプを区別する
潜在対数価格が連続セミマルチンゲールに従い、適切な正則条件のもとでサンプリング間隔を細かくしていくと、正と負のリターン半分散はそれぞれ連続二次変動の半分に収束します。この場合、基礎となる連続変動に持続的な方向差がなくても、標本の正負の合計には差が出ることがあります。標本抽出のランダム性も影響します。
ジャンプが発生すると、その二乗値は符号に応じて正または負の成分に入ります。総実現分散では失われる方向情報を残せますが、負のリターンがすべてジャンプである、あるいは正のリターンがすべて無害であるという意味ではありません。大きな連続変動もジャンプも、大きな二乗リターンを生みます。符号が分類するのは観測された増分であり、経済的な原因ではありません。
下の概念図は、正と負の増分を2つの視覚的なグループに分けています。実データのチャートでも検定結果でもなく、基礎過程に持続的な方向バイアスがあるという主張でもありません。
<!-- learn:illustration --> <!-- Text-free concept: positive and negative return increments feed separate collections of squared-magnitude tiles, while their combined area echoes total realized variation. No measured data or market direction is implied. -->

非対称性は予測ではなく検証すべき証拠として読む
実現半分散を将来ボラティリティのモデルに別々の予測変数として入れることができます。PattonとSheppardのS&P 500および個別株に関する研究では、対象の標本と仕様において、過去の負リターン変動の方が正リターン変動より将来ボラティリティとの関連が強いと報告されました。これは特定の実証設計の結果であり、市場全般の法則でも新しい戦略の予測性能の保証でもありません。
予測を主張するには、予測対象と期間を定め、適切なベンチマークと比べてアウト・オブ・サンプルで評価します。1日の \(RS^-\) と \(RS^+\) の差は記述的な結果であり、予測力を証明しません。回帰ではボラティリティの持続性、重複する予測期間、パラメーターの不確実性、データ選択も考慮する必要があります。予測誤差は意思決定に合った損失関数で評価します。
多変量への拡張として、Bollerslev、Li、Patton、Quaedvliegは、高頻度リターンの組の符号に応じて実現共分散を分解する実現半共分散を展開しました。Econometrica掲載論文は、同符号成分と異符号成分が異なる情報を持ちうる理由を示しています。単変量の正負分解はより単純で、完全な共分散分解やポートフォリオリスク分解として提示すべきではありません。
半分散を下方偏差やテールリスクと混同しない
「下方半分散」は複数の定義で使われます。ここでの実現指標は、ゼロ未満の高頻度リターンを二乗して合計します。一方、目標基準の下方指標では、目標や最低許容リターンなど、選んだ閾値を下回るリターンを二乗します。標本平均を基準にする計算もあります。同じリターン系列でも定義が違えば、答える問いも数値も異なります。
どちらの実現半分散もValue-at-RiskやExpected Shortfallではありません。VaRは指定された損失分布と期間における分位点を示し、Expected Shortfallは明示した規約に従って分位点を超える損失を要約します。負の日中リターンの二乗和にその解釈はありません。リターンの順序と経路に依存するドローダウンも、完全には測りません。
グラフやモデルで \(RS^-\) を「下方リスク」と呼ぶなら、ゼロ基準か目標基準か、サンプリング頻度、区間統計・予測入力・ポートフォリオ指標のどれなのかを併記します。GARCHボラティリティの解説は条件付き分散の動態を扱います。実現半分散は、入力候補として検討できる方向別の高頻度測定値です。
サンプリングと市場ノイズの影響を考慮する
符号分解は観測されたリターン系列に依存します。より頻繁なサンプリングでは、ビッド・アスクの往復、価格の離散性、古い気配値、タイムスタンプの影響が加わることがあります。価格代理変数やサンプリング格子が変わると、小さな記録上の価格変化の符号が反転する場合があります。マイクロストラクチャーノイズは二乗値だけでなく、どちらの成分に入るかも変えます。選んだ系列で \(RV=RS^++RS^-\) が成り立っても、サンプリング設計の妥当性は保証されません。
比較を再現できるよう、価格フィールド、サンプリング間隔、取引時間の境界、ゼロリターンと外れ値の扱い、資産間リターンの同期方法を記録します。妥当な複数のサンプリング設定で感度を確認します。ジャンプの識別やノイズへの頑健性が中心課題なら、符号分解を補正とみなすのではなく、その目的に設計された推定量や検定を使います。Two-scale実現ボラティリティの解説はノイズ補正の別の方法を説明します。
統計的推論には、適切な標本分布または再標本化設計も必要です。正負の成分は同じ経路から作られるため依存しうるほか、重複する窓が依存性を増すこともあります。信頼区間や予測比較はこの性質を反映すべきです。点推定を2つ比べるだけでは、基礎となる予測上の役割の違いを検定できません。
再現可能な方向別比較を報告する
明確な報告では、資産またはポートフォリオのリターン系列、観測期間、リターンの定義、サンプリング格子、単位を示します。\(RS^+\) と \(RS^-\) の式を記し、合計が実現分散に一致すること、ゼロや欠損観測の扱いも説明します。予測モデルに用いる場合は、予測期間、ベンチマーク、評価期間、損失関数を報告します。
集計の仮定を明示せず、実現半分散をそのまま年率ボラティリティに変換しないでください。選択した規約のもとで日次値を合計し、記述的な年間総量とすることはできますが、その平方根が既知の分布を持つ下方標準偏差になるとは限りません。年率換算しても、価格入力の偏り、疎なサンプリング、選択効果は修正されません。
主な用途は、観測リターンの方向を保ちながら、実現変動で用いる二乗の重み付けを適用する規律ある測定です。結果から検証に値するパターンが見つかることはありますが、それだけで原因を特定したり、テール確率を測ったり、過去の非対称性を売買シグナルに変えたりはできません。
よくある質問
Q1負の実現半分散は下方偏差と同じですか?
いいえ。この実現指標はゼロを下回る高頻度リターンを二乗して合計します。下方偏差は目標や最低許容リターンを基準にすることが多く、閾値と中心化の規約が異なります。
Q2正と負の半分散を足すと、常に実現分散になりますか?
同じ有限リターン系列とここで示した定義を使えば、はい。正または負の二乗リターンは一方だけに入り、ゼロリターンはゼロを加えます。標本や規約が違えば一致しない場合があります。
Q3負の半分散は暴落の確率を測りますか?
いいえ。負のリターンの二乗和であり、テール確率や分位点ではありません。VaR、Expected Shortfall、ドローダウンは別の問いに答えます。
Q4実現半分散で将来のボラティリティを予測できますか?
予測変数に含めることができ、特定の実証研究では予測に役立つ情報が報告されています。性能は標本、モデル、期間、アウト・オブ・サンプル評価によって異なり、この指標自体が予測なのではありません。 ---
出典
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問題 01
同じリターン系列で、2つの実現半分散と実現分散を結ぶ関係はどれですか?
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