Johansen共和分検定:ランク、Trace検定と最大固有値検定
Johansen検定の共和分ランクが数える対象、Trace検定と最大固有値検定の違い、ラグや決定論的項の選択が重要な理由を解説します。
このガイドの内容共和分ランクは独立した定常関係の数を数えます
短い要約
Johansen法は、多変量時系列システムにおける長期行列のランクを検定します。ランク \(r\) は、指定したモデルのもとで互いに独立した定常な組み合わせの数です。この値だけでは、取引可能なポートフォリオを特定したり、因果関係を証明したり、推定された関係が続くと保証したりはできません。
共和分ランクは独立した定常関係の数を数えます
明示したデータ生成の設定のもとで、それぞれを \(I(1)\) と扱う \(k\) 個の変数を含む \(y_t\) を考えます。共和分ランク \(r\) は、それらの水準の線形結合のうち定常となる、互いに独立した関係の数です。\(r=0\) なら、その仕様のもとでそのような結合は見つかりません。\(0<r<k\) なら、独立した長期関係が \(r\) 個あり、通常の \(I(1)\) システム条件では \(k-r\) 個の共通確率トレンドが残ります。ランク1はシステム全体にまたがる関係が1つという意味で、明らかな資産ペアが1組あるとは限りません。
これはシステム全体についての問いです。2段階のEngle–Granger法は、正規化した長期方程式を1本推定し、その残差を検定します。一方、Johansenの最尤法はベクトル自己回帰における共和分空間の次元を推定・検定するため、独立した関係が複数ある場合も表現できます。両者は関連しますが異なる問いに答えます。有限標本や異なるラグ・決定論的仕様では、結果が一致しないことがあります。
VECMで長期行列のランクを確認できます
水準VARは、ここでは決定論的項を省略すると、簡略化したベクトル誤差修正形式に書き換えられます。
\[ \Delta y_t = \Pi y_{t-1} + \sum_{j=1}^{p-1}\Gamma_j\Delta y_{t-j}+\varepsilon_t, \qquad \Pi=\alpha\beta^{\mathsf T}. \]
ここで \(p\) は水準VARのラグ次数です。\(\beta\) の列は長期関係を表し、\(\alpha\) には過去の不均衡を現在の変化に結びつける調整負荷量が含まれます。\(\Pi\) のランクが \(r\) なら、\(\alpha\) と \(\beta\) をそれぞれ \(k\times r\) の行列に分解できます。誤差修正項の数を決めるのは変数の数だけではなく、行列のランクです。
すべての \(k\) 系列が実際に \(I(1)\) なら、通常の共和分ケースでは \(r<k\) です。フルランクという結果は、適合した仕様で許された決定論的項の周りで水準が定常であることを示唆します。元の積分次数の前提を見直してください。ランク0も、変数同士にどんな関係もないことを証明するわけではありません。選んだモデルが、検定したランクにおいて定常な水準結合を見つけなかったという意味です。

Trace検定と最大固有値検定は異なる対立仮説を使います
推定固有値を \(1>\hat\lambda_1\ge\hat\lambda_2\ge\cdots\ge\hat\lambda_k\ge0\) の順に並べます。これらは最尤手続きの縮小ランク問題から得られる値で、通常の分散説明率ではありません。候補ランク \(r\) に対するTrace統計量は次のとおりです。
\[ \operatorname{LR}_{\mathrm{trace}}(r)=-T\sum_{i=r+1}^{k}\ln(1-\hat\lambda_i), \]
帰無仮説 \(H_0:\operatorname{rank}(\Pi)\le r\) を、対立仮説 \(H_A:\operatorname{rank}(\Pi)>r\) と比較します。残りの固有値からの証拠を累積します。最大固有値統計量は次のとおりです。
\[ \operatorname{LR}_{\max}(r,r+1)=-T\ln(1-\hat\lambda_{r+1}), \]
ランク \(r\) と次のランク \(r+1\) を比較します。つまりTrace検定は関係の総数が \(r\) を超えるかを尋ね、最大固有値検定は次の関係を追加する証拠があるかを尋ねます。ランクの帰無仮説に対する参照分布は、通常のカイ二乗分布ではありません。
仮想的な固有値で計算例を確認します
利用可能な観測値が200個で、推定固有値が \(0.16\)、\(0.05\)、\(0.01\) の順に並ぶ3変数システムを考えます。これは説明用の仮想値で、市場推定ではありません。\(r=0\) ではTrace統計量は3項を合計して約 \(47.14\)、最大固有値統計量は最初の項だけを使って約 \(34.87\) です。\(r=1\) ではそれぞれ約 \(12.27\) と \(10.26\)、\(r=2\) では最後の固有値だけを使うためどちらも約 \(2.01\) です。
この計算で得られるのは検定統計量であり、ランク判定そのものではありません。正確な決定論的設定と検定順序に対応する臨界値またはp値と比較します。たとえばソフトウェアの表に「\(r=0\)を棄却」とあれば、その表の仮定と選択した有意水準のもとでランク0に反する証拠があるという意味です。特定の資産スプレッドが定常である確率を直接示すわけではありません。p値が基準を上回る場合は、そのランクの帰無仮説を棄却できないのであって、真であると証明したわけではありません。
ラグ次数と決定論的項が検定対象のシステムを定めます
ランクを解釈する前に、妥当なVARラグ次数を選びます。水準VARの次数が \(p\) なら、VECMには差分のラグが \(p-1\) 個入ります。ラグが少なすぎると残差に系列相関が残ることがあり、多すぎると自由度を消費して有限標本での推論が不安定になります。情報量規準は候補整理に役立ちますが、残差診断、標本サイズ、経済的な時間構造も重要です。選択方法を示し、妥当な代替も確認してください。
定数項やトレンドを共和分関係の外に置くか、関係内に制約するか、モデルから除くかを決めます。設定によって長期動学とランク検定の分布が変わります。有利なp値を探すのではなく、問いとデータに基づいて仕様を選びます。決定論的ケース、変数数、実装に合った臨界値を使ってください。Johansenのランク統計量は非標準分布に従います。MacKinnon、Haug、Michelisは、外生 \(I(1)\) 変数を許す拡張を含め、指定されたJohansen型尤度比検定について応答曲面分布を計算しました。この値をあらゆるランク検定に流用できるわけではありません。
決定論的項の位置は、ソフトウェア上の見た目だけの設定ではありません。一般的なパラメータ化では、共和分関係内に制約した定数項はその均衡結合に非ゼロの平均を許し、関係の外に非制約で置いた定数項は水準に異なる決定論的ドリフトを許すことがあります。トレンド制約も維持される長期経路を変えます。「定数項あり」とだけ報告せず、定数項の位置と各制約を明記してください。
推定ベクトルには正規化と経済的な解釈が必要です
中心となる推定対象は共和分空間です。ランク1モデルでは、\(\beta\) ベクトルに0でない定数を掛けても、どの水準結合が定常かは変わりません。そのため分析者は、たとえば1つの係数を1にする正規化を選びます。ランクが高い場合、同じ空間を張る基底は複数あります。ソフトウェアが表示するベクトルが、自動的に一意の経済関係になるわけではありません。個別のベクトルを解釈するには制約や追加の理論が必要で、正規化も報告してください。
調整行列 \(\alpha\) は、適合したシステムでどの変数が不均衡に反応するかを示します。符号は選んだ正規化に依存し、各要素はシステム内の条件付き係数であって、単独の因果効果ではありません。小さい、またはゼロの負荷量から弱外生性を考えることはできますが、結論には対応する形式的制約とモデル前提が必要です。共和分ランクだけでは、どの変数が「先行」するか、どの関係が経済的に意味を持つか、ショックが将来価格にどう影響するかは分かりません。
この非一意性は表示上の問題ではなく、行列分解の性質です。正則な \(H\) に対して、\(\beta H\) と \(\alpha(H^{-1})^{\mathsf T}\) は同じ長期行列 \(\Pi\) を与えます。そのため推定された空間は識別できても、個々に表示されたベクトルは一意に定まらないことがあります。特定のベクトルを取引対象のスプレッドにするには、明示的な正規化または経済的制約が必要です。単位とリスクも別途検討してください。
順次検定とモデルの不確実性がランクの主張を制限します
ランクは通常、候補値を0から順に検定し、最初に棄却できない帰無仮説が見つかるまで進めます。選ばれたランクは、選択した有意水準と仕様のもとでのモデル選択です。Trace検定と最大固有値検定の結果が異なる場合は、不一致を隠さず、ラグ、決定論的項、検定力の弱さ、構造変化、標本感度を調べ、両方を報告します。
尤度比検定の臨界値は非標準で、システム仕様に依存します。単位根に近い動き、短い標本、外れ値、レジーム変化、\(I(2)\) 変数、積分された外生変数があると、単純な \(I(1)\) 設定が適切でない場合があります。標準ランク表がこれらを自動的に扱うわけではありません。Johansenの初期研究はガウスVARの仮定のもとで尤度推論を展開し、その後の応答曲面計算は指定された検定設定の参照分布を示しました。あらゆるデータ問題に当てはまるものではありません。
たとえばTrace検定が \(r=0\) と \(r=1\) を棄却し、\(r=2\) を棄却しない場合、通常の逐次手順では、その仕様と有意水準のもとでランク2を選びます。これは真のランクが2である確率が1という意味ではありません。最大固有値検定は隣接するランクの帰無仮説を比較するため、その判定も示してください。別の検定の臨界値を使ってはいけません。
選択したランクは標本期間にも依存します。経済関係、市場構造、変数の定義が変わると、前半と後半の標本で推定ランクが異なることがあります。感度分析で不安定性を確認できますが、終了時点を多数試すと多重検定の問題が生じます。事前に決めた期間と、事後に分割した探索的な期間を区別して説明してください。
共和分ランクだけではペア取引シグナルになりません
取引研究では、推定された \(\beta\) ベクトルをスプレッド定義の候補にできますが、ランクからエントリーやエグジット水準、ポジションサイズ、期待リターンは得られません。共和分ベクトルが複数ある場合、どの結合を選ぶかには正規化、制約、データ選択が関わります。統計的関係が推定されても、重みによっては空売り、レバレッジ、低流動性が必要になることがあります。
各判断時点で利用可能な情報だけを使ってシステムを推定し、選択と再推定を含む手順全体を時系列順に検証します。標本外で関係が安定しているか確かめ、必要に応じて配当、先物ロール、通貨換算、資金調達、借株の可用性、売買スプレッド、市場インパクト、執行時点を含めます。ランクの棄却は特定のモデルに関する証拠であり、収益性の主張ではありません。Engle–Granger検定と誤差修正では単一方程式の代替法を、ペア取引における共和分と相関では相関が別の性質である理由を説明します。
ランク検定を再現できる情報を報告します
\(k\) 個の変数、変換、観測頻度、標本期間、積分次数に関する証拠を明記します。水準VARのラグ次数、決定論的項の配置、有効標本数、Traceと最大固有値の統計量、対応する臨界値またはp値、有意水準、順次ランク判定を報告します。二つの検定が一致したか、どのランクを次に用いたか、感度分析で結果が変わったかも示してください。
ベクトルを示す場合は、正規化、制約、対応する調整負荷量を記載します。取引への応用では、各リバランス時に利用できたデータ、ベクトルの選択規則、標本外評価設計、費用、失敗時の扱いを開示します。Johansenの1988年の共和分ベクトル分析90041-3)は、共和分空間とランクに関する尤度法を展開します。1991年のガウスVAR研究はランク推論とベクトルに関する仮説を扱います。MacKinnon、Haug、Michelisは共和分尤度比検定の応答曲面分布を提供しています。関連ガイドでは定常性と単位根を扱います。
よくある質問
Q1ランク1なら、ちょうど2つの資産がペアになるのですか?
いいえ。システム全体で独立した定常結合が1つという意味です。複数の変数を含む関係かもしれず、解釈には正規化が必要です。
Q2Trace検定と最大固有値検定は同じランクを選びますか?
必ずしもそうではありません。対立仮説が異なるため、結果が食い違うことがあります。両方を報告し、モデル、ラグ、決定論的項、標本への感度を調べます。
Q3ランク0を棄却すれば、スプレッドに利益があると証明できますか?
いいえ。指定されたモデルのもとで共和分なしという帰無仮説に反する証拠です。取引規則、標本外での安定性、執行費用控除後の純リターンは示しません。 ---
出典
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問題 01
I(1)として扱う3変数システムで、共和分ランクが1とは何を意味しますか?
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