名目リターンと実質リターン:運用益はインフレを上回った?
同じ期間の物価指数で実質リターンを計算します。名目8%・インフレ5%の例から、複数年の複利、手数料・税金、通貨換算、入出金の違いまで確認できます。
要点
名目リターンは金額の増加率、実質リターンは購買力の増加率です。同じ期間の運用成長係数を物価の成長係数で割って求めます。名目8%の利益と5%のインフレなら、実質リターンは正確には3%ではなく約2.86%です。残高が増えても買える財やサービスは減る場合があります。
購買力を調整する前に運用収益率の範囲を決める
口座残高が増えたからといって、より多くの財やサービスを買えるとは限りません。実質リターンは同じ期間の運用成長を、選んだ消費バスケットの価格変化と比較します。
本稿の「名目」はインフレ未調整という意味です。必ず手数料や税金の控除前という意味ではありません。費用の扱いを別に示してください。税引後の名目リターンにも物価調整が必要です。
単純な例では、開始時の資産価値は正、表示通貨は一つ、外部からの入出金はなしとします。口座内に残る現金や運用収入は終了価値に含め、別記がない限り借入れは除外します。
株式の利益には値上がり益と配当の両方があります。[Investor.govの株式解説](https://www.investor.gov/introduction-investing/investing-basics/investment-products/stocks)もこの点を説明しています。
価格変化だけでなくトータルリターンを出発点にします。再投資した分配金は増えた保有口数に反映済みです。同じ現金を再び足さないでください。
名目8%の運用益から正確な実質リターンを導く
同じ期間の名目リターンをn、インフレ率をpとし、小数で入力します。10,000が8%増えると名目終了価値は10,800です。物価指数が5%上がったなら、この金額を1.05で割ります。
一般式は、実質リターン = (1 + n) ÷ (1 + p) − 1 = (n − p) ÷ (1 + p)です。百分率にするには100を掛けます。名目成長係数と物価指数には整合する正の基準値を使います。
8%から5%を引くと差は3パーセントポイントですが、正確な実質リターンではありません。1.05で割る過程が省かれています。本稿の数字は仮定であり、現在の物価や運用実績ではありません。
[セントルイス連銀の正確な関係式](https://fredblog.stlouisfed.org/2022/05/constructing-ex-ante-real-interest-rates-on-fred/)も、成長係数の比率と引き算による近似を区別しています。
- 名目終了価値:10,000 × 1.08 = 10,800。
- 開始時の貨幣価値で表した購買力:10,800 ÷ 1.05 ≈ 10,285.71。
- 実質リターン:丸め前の値を使い、10,285.71 ÷ 10,000 − 1 ≈ 2.8571%。
残高が増えても実質では損失になる例を見る
10,000の運用で4%の利益が出る一方、物価は6%上がったとします。口座は10,400になりますが、元のバスケットの購買力を維持するには10,600が必要です。
実質終了価値 = 10,400 ÷ 1.06 ≈ 9,811.32。実質リターン = 1.04 ÷ 1.06 − 1 ≈ −1.8868%です。名目利益400と実質損失は単位が異なるだけで、帳簿の矛盾ではありません。
無利息の現金でも分母の違いが分かります。名目金額が変わらず物価が5%上がると、実質リターンは1 ÷ 1.05 − 1 ≈ −4.7619%です。正確には−5%ではありません。
インフレは証券会社が口座から引き落とす費用ではありません。残高が同じでも購買力は下がります。また実質リターンと実現損益は別です。決済しても経済全体の物価変化は自動的に反映されません。
物価指数を運用期間と支出通貨に合わせる
同じ物価指数系列の開始値と終了値を使います。期間インフレ率 = 終了指数 ÷ 開始指数 − 1です。200から210への上昇は10%ではなく5%です。
指数の基準水準自体は任意です。100から105でも比率は同じです。基準時点の異なる系列を、提供機関の接続方法なしに混ぜないでください。
3か月の運用なら対応する3か月の指数変化を使い、最新の前年比をそのまま使わないでください。公表日と測定期間は異なります。正確な端点がなければ日付の不一致を明記します。
消費者物価指数はバスケットの平均であり、個人の家計簿ではありません。[豪州統計局のCPI FAQ](https://www.abs.gov.au/articles/frequently-asked-questions-faqs-about-consumer-price-index)もこの限界を説明しています。
支出する地域と目的に合う価格バスケットを選び、名目リターンの通貨もそろえます。外国資産の現地通貨建てリターンは、整合した換算を経てから国内購買力と比較してください。
通貨の名前だけを変えても換算にはなりません。外貨建てリターンに別の国のインフレ率を直接当てはめても、信頼できる自国通貨建て実質リターンにはなりません。
複数年の運用成長と物価上昇を別々に複利計算する
2年間の名目リターンが+10%、−5%、インフレ率が+4%、+3%だったとします。外部入出金、口座外へ出た運用収入、費用のない仮の経路です。
対応する年率実質リターンは(1.045 ÷ 1.0712)^(1/2) − 1 ≈ −1.2305%です。この年率と2年間の累積名目リターン4.5%を、同じ期間の数値として比較しないでください。
この例ではインフレ率が4%から3%に鈍化しましたが、物価水準は両年とも上がっています。正の上昇率が小さくなっても、それまでの値上がりは元に戻りません。
算術平均と複利リターンでは、各年の運用収益率やインフレ率を足すだけでは正しい成長係数にならない理由を確認できます。
- 運用成長係数:1.10 × 0.95 = 1.045。累積名目リターンは4.5%。
- 物価成長係数:1.04 × 1.03 = 1.0712。累積インフレ率は7.12%。
- 実質成長係数:1.045 ÷ 1.0712 ≈ 0.97554145。
- 累積実質リターンは約−2.4459%。10,000の最終購買力は開始時点基準で約9,755.41。
手数料・税金・分配金を物価調整と分ける
リターンの名称は異なる側面を表します。名目トータルリターンは収入を含んでも個人の税金を除く場合があります。実質リターンも、入力次第で税引前にも税引後にもなります。
最初の例の費用前終了価値10,800から、期間末に手数料100と税金200を口座内で支払うと10,500が残ります。任意の支出額であり、特定の国の税制ではありません。
費用控除後の名目リターン = 10,500 ÷ 10,000 − 1 = 5%。同期間のインフレ率も5%なら、費用控除後の実質リターン = 1.05 ÷ 1.05 − 1 = 0%。この仮定では購買力は不変です。
終了価値が既に費用を反映しているなら、再び引かないでください。期間途中の費用を口座履歴から再現するには、実際の支払時点が必要です。上記の単純な期間末支払とは異なります。
分配金は自動的な追加利益でも、インフレからの保護でもありません。
[Investor.govの分配金解説](https://www.investor.gov/introduction-investing/general-resources/news-alerts/alerts-bulletins/investor-bulletins/fund-distributions-investor-bulletin)で支払原資を確認できます。
同じポートフォリオ範囲で分配金を扱います。口座内に保有・再投資した現金は運用結果に含まれますが、外部から追加した資金は、物価を考慮しても運用益にはなりません。
実質成長目標を条件付きの名目ハードルに直す
目標実質リターンq、想定インフレ率pに対する必要名目リターンは(1 + q) × (1 + p) − 1です。実質計算を逆に解いただけで、その利益を出せる投資が見つかったわけではありません。
実質3%の目標とインフレ5%の想定なら、同じ費用基準で1.03 × 1.05 − 1 = 名目8.15%が必要です。3%と5%を足すと正確な必要リターンを過小評価します。
計画に使う将来インフレ率は仮定であり、終了期間の検証に使うインフレ率は観測値です。別々に表示してください。名目支払額が固定でも、将来の購買力は確定しません。
名目結果が8.15%でも実際のインフレ率が7%なら、実質リターンは1.0815 ÷ 1.07 − 1 ≈ 1.0748%となり、目標3%を下回ります。この例は売買戦略ではなく、物価の想定だけを変えています。
実質リターン目標はレバレッジを上げる根拠ではありません。測定の比較基準であって、保証された結果やリスク拡大の指示ではありません。
インフレ調整済み成績を使う前の入力監査
終了価値と二つの成長係数の根拠から確認します。期間、通貨、価格バスケット、費用の扱いが不明な収益率は、第三者が正確に再現できません。
資金の追加や引出しがあれば、先にその測定を整理します。時間加重・金額加重リターンでは入出金の時期と規模を区別します。
インフレ率が変動する場合、入出金時点の影響を受けるIRRから一つのインフレ率を引くと誤解を招きます。追加資金を成長とみなさず、日付に沿った一貫した購買力測定を使ってください。 [!TRYMARK] TryMark購買力チェック 次の明細日で開始時の購買力を維持できたか確認します。収益率、費用、通貨、測定日が変わったら、対応する物価指数水準で再計算してください。 [!WARNING] 購買力の測定は元本保証ではありません 過去の実質リターンがプラスでも、将来の損失や個人の消費バスケットは保証されません。本稿は測定方法であり、買う証券や取るべきリスクの推奨ではありません。
- 開始・終了日、正のポートフォリオ価値、一つの表示通貨を記録します。
- 収入、再投資、手数料、税金、外部振替を照合します。
- 物価指数系列と期間に合う開始・終了水準を記録します。
- 名目と実質、累積と年率、観測値と仮定をそれぞれ明記します。
よくある質問
名目リターンからインフレ率を引く方法は常に間違いですか?
近似であり、率が小さいと近い値になります。正確には同期間の成長係数を割ります。名目8%、インフレ5%なら引き算は3%ですが、正確な実質リターンは約2.86%です。
実質リターンとは投資を決済済みという意味ですか?
いいえ。実質は物価調整、実現は投資結果の売却や決済を指します。未決済の資産にも物価調整後の評価額を使えますし、決済済み取引が名目金額だけで報告されることもあります。
実質リターンが名目リターンを上回る場合はありますか?
デフレではあります。名目金額が変わらず、選んだ物価指数が2%下がると、実質リターンは1 ÷ 0.98 − 1 ≈ 2.0408%です。同じお金でそのバスケットをより多く買えます。
インフレ率が下がれば失った購買力は回復しますか?
それだけでは回復しません。4%の次に3%の正のインフレが続けば、物価は下がらず緩やかに上がります。運用が追いついたかは、関連する物価指数の累積変化との比較で決まります。