Amihud非流動性比率(ILLIQ):公式、計算例と限界
AmihudのILLIQが日次絶対リターンとドル建て売買高をどう結び付けるか、仮定の計算例と単位、解釈上の限界を解説します。
このガイドの内容AmihudのILLIQは何を測るのか
短い要約
Amihud非流動性比率は通常ILLIQと呼ばれ、銘柄の日次絶対リターンを日次ドル売買高で割った値を、一定期間について平均します。取引活動に対して価格がどの程度動いたかを示す低頻度の代理指標です。気配値のビッド・アスク・スプレッドでも、個別注文の因果的な価格インパクト推定でも、将来リターンの保証でもありません。
AmihudのILLIQは何を測るのか
Amihud指標が表すのは、ある資産の日々の価格変動が、その日に取引された金額に対して平均的にどの程度大きかったかです。対象となる各取引日について絶対リターンをドル売買高で割り、選んだ期間の日次比率を平均します。値が高ければ、観測した標本では売買高に比べて絶対価格変動が大きかったことを意味します。値が低ければ、売買高に対する日々の価格変動は相対的に小さかったということです。
Yakov Amihudは、取引単位の気配値や約定データが得られない場合、または過去の市場マイクロストラクチャーデータが限られる場合に使える実用的な代理指標として、この尺度を提案しました。2002年の論文は米国株データを使って非流動性と株式リターンの関係を調べ、日次比率を絶対リターンとドル売買高で定義しています(Amihud, 2002)。この考え方は過去のパネルデータでも役立ちますが、各日を二つの数値に要約するため、価格変動の原因までは特定できません。
この区別は重要です。大きな絶対リターンは、板の薄さだけでなく、企業の重要発表、市場全体のショック、あるいは複数の要因が重なって生じることがあります。ILLIQは、定めたデータ構成のもとで実現した価格変動と売買高の関係を表します。特定の投資家の注文が同じ幅だけ価格を動かしたことを示すものではありません。
日次ILLIQの公式と単位
銘柄 \(i\) の期間 \(y\) について、よく使われる形は次のとおりです。
\[ \mathrm{ILLIQ}_{i,y}=\frac{1}{D_{i,y}}\sum_{d=1}^{D_{i,y}}\frac{|R_{i,y,d}|}{\mathrm{DVOL}_{i,y,d}}, \]
ここで \(R_{i,y,d}\) は日次リターン、\(\mathrm{DVOL}_{i,y,d}\) は日次ドル売買高、\(D_{i,y}\) は期間内の対象取引日数です。ここではリターンを小数、売買高を米ドルで表します。したがって日次比率の単位はドル当たりのリターン、つまり \(1/\text{USD}\) で、平均したILLIQも同じ単位です。
リターンの表記は統一します。単純日次リターン \(0.01\) は1%の変動です。同じ値を小数ではなくパーセントポイントの \(1\) として入力すると、ILLIQの計算値は100倍になります。小さな変動では対数リターンと単純リターンは近いものの、大きな変動では差が出ます。どちらを使ったか、株式分割や分配金について価格とリターンを調整したか、売買高の通貨を何にしたかを明記します。
数値を読みやすくするため、研究者はILLIQに \(10^6\) などの定数を掛けることがあります。変わるのは表示上の尺度であり、測定対象そのものではありません。倍率を明示してください。たとえば \(10^6\) を掛けた値が \(0.0023\) でも、リターンが小数か百分率か、出来高の通貨と倍率が分からなければ解釈できません。
3日間の仮定例で平均の計算を確認する
以下はすべて仮定の数値です。リターンは小数、売買高は日次のドル建て売買代金とします。
| 日 | 日次絶対リターン | ドル売買高 | 日次比率 |
|---|---|---|---|
| 1 | 0.005 (0.50%) | $2,000,000 | \(0.005 / 2{,}000{,}000 = 2.5\times10^{-9}\) ドル当たり |
| 2 | 0.010 (1.00%) | $4,000,000 | \(0.010 / 4{,}000{,}000 = 2.5\times10^{-9}\) ドル当たり |
| 3 | 0.002 (0.20%) | $1,000,000 | \(0.002 / 1{,}000{,}000 = 2.0\times10^{-9}\) ドル当たり |
3日間の平均は次のとおりです。
\[ \mathrm{ILLIQ}=\frac{2.5+2.5+2.0}{3}\times10^{-9}=2.333\ldots\times10^{-9}\;\text{ドル当たり}. \]
表示上 \(10^6\) を掛ける場合、数値は \(0.002333\ldots\) になります。これは標本統計量の尺度を変えただけです。仮に100万ドルの注文で0.2333%のリターン変化が起きるという予測ではありません。この比率は一日のリターンと売買高を使っており、注文を制御した実験や因果的な価格インパクトの検証ではないからです。この計算は説明用で、実際の市場データではありません。
この例は、絶対リターンの合計を総売買高で割るのではなく、日ごとの比率を平均する理由も示しています。上の式では対象となる各取引日に同じ重みを付けます。そのため、売買高の少ない日でも高い比率になることがあります。期間平均だけでなく日次の値も確認してください。

高い値が示すのは過去の関係であり、市場の固定的な性質ではない
同じ方法で構成した標本内でILLIQが高い場合、平均してドル売買高に比べた絶対日次リターンが大きかったことを示します。信頼できる気配値データがない過去のデータセットで、非流動性を大まかに順位付けしたり代理指標として使ったりできます。銘柄や時期を比較するなら、対象銘柄、リターン表記、売買高の定義、期間、通貨、フィルターをそろえることが前提です。
数値は尺度とデータの選択に左右されます。リターンを小数ではなくパーセントポイントで表せば比率は100倍になります。売買高の通貨を変えて一貫した換算をしなければ、数値も変わります。上場市場、取引時間、株式クラス、時価総額帯、データ品質の違いも価格の動きや測定結果に影響します。順位を解釈する前に、こうした選択を記録してください。
Amihudの米国株を対象とした元の研究では、分析期間における予想非流動性と予想株式リターンの正の関係が報告されており、1964~1997年のNYSE銘柄の横断面分析も含まれています。これは当該研究の標本と設計に関する結果であり、別の市場や将来の期間でもILLIQの高い資産が高いリターンを得るという保証ではありません。Implementation shortfallのガイドでは、証券単位の過去の代理指標とは異なる、実際の約定コストを扱います。
ILLIQは価格インパクトに関係するが、スプレッドや板の厚さとは異なる
Kyleの市場マイクロストラクチャーの枠組みは、情報を持つ取引者と流動性供給者の相互作用のなかで注文フローが価格を動かす仕組みを説明します(Kyle, 1985)。取引活動に対する価格変動から流動性の手掛かりを得るという直感はILLIQと共通しますが、ILLIQはKyleの構造的な価格インパクト係数ではありません。一定サイズの買いまたは売り注文の効果を推定するものではなく、日次リターンには特定の注文と無関係な価格変動も含まれます。
ビッド・アスク・スプレッドは別の対象を測ります。ある時点の買い気配と売り気配の差、または約定価格と同時点の仲値との差です。AmihudとMendelsonの資産価格分析では、スプレッドを取引コストの一側面として扱っています(Amihud and Mendelson, 1986)。一方、ILLIQは日次絶対リターンとドル売買高を使います。スプレッドは気配値から観測することも、Roll推定量などで推定することもできます。Rollスプレッド推定量のガイドでは、約定価格の共分散から得る代理指標とILLIQが互換ではない理由を説明しています。
表示板の厚さは気配価格で利用できる数量を表し、オーダーフロー不均衡は最良買い気配と最良売り気配での需給の変化をまとめます。どちらも日次リターン対売買高の比率には直接含まれません。オーダーフロー不均衡のガイドでは最良気配の変化を扱います。取引方向の分類ガイドでは、買い手主導と売り手主導の取引を特定するために別のルールが必要な理由を説明しています。データがあればILLIQを補完できますが、定義と失敗要因は異なります。
流動性リスクも非流動性の水準とは別の概念です。PástorとStambaughは、株式リターンが市場全体の流動性変動にどれほど敏感かを調べ、流動性リスク・ファクターを構成しました(Pástor and Stambaugh, 2003)。ILLIQだけでは、こうした感応度や市場全体の流動性ショックに対する資産のエクスポージャーは測れません。
日次リターンとドル売買高を比較可能な形で作る
株式の日次ドル売買高は、通常、取引時間中に売買された株式の金額から計算します。価格と株数の定義を記録してください。データ提供元の項目は、市場全体の合算、一つの取引所、通常取引時間、時間外取引を表すことがあります。説明せずに混在させないでください。売買代金が直接提供される場合は、通貨と日次リターンの取引時間が一致するか確認します。
リターンと売買高の時間区間は対応させます。通常取引時間の売買高で終値間リターンを割ると、分子には夜間の価格変動が入る一方、分母には夜間取引が入りません。意図的な日次設計ではあり得ますが、日中の価格インパクトを同じ基準で推定するものではありません。休場日、売買停止、短縮取引、古い終値、取引のない日をまたぐリターンの扱いを明示してください。
コーポレートアクションも重要です。株式分割調整前の価格履歴は人工的な変動を生むことがあります。分配金については価格リターンかトータルリターンかを選びます。先物では限月交代と倍率、暗号資産では取引所、決済通貨、ステーブルコインの換算、24時間日の区切りを明記します。定義が比較可能な商品だけを一緒に扱うか、対象を分けてください。
売買高がゼロなら除算は定義できず、欠損データからも比率は計算できません。任意の分母を入れたり、欠損値を黙ってゼロにしたりしないでください。対象日を定義し、除外数を報告し、とくに取引の少ない銘柄で除外方法が結果を変えるか確認します。ごく小さな正の売買高は極端な値を生むため、品質確認で本当に流動性の低い日と不完全なデータを区別します。
ボラティリティ、情報イベント、マイクロストラクチャーのノイズがILLIQを歪める
分子が絶対リターンなので、同じサイズの注文に対する気配スプレッドや板の厚さが変わらなくても、価格変動の大きい銘柄はILLIQが高くなることがあります。決算発表で大きな価格変動と高い売買高が同時に起きる場合もありますが、この比率は情報による再評価と注文の価格インパクトを区別しません。したがって、ILLIQは純粋な流動性統計ではありません。
日次集計では日中のタイミングが見えなくなります。板の薄い寄り付き、ニュース後の価格急変、静かな引けが一つの絶対リターンと売買高合計にまとめられます。価格インパクトのうちどれだけが後で戻ったか、どちら側が取引を開始したか、特定の気配にどれだけ数量があったかは分かりません。呼値、値幅制限、古い価格、非同期取引も銘柄間比較を歪める場合があります。
日次売買高が非常に小さいと、極端な比率が平均を支配することがあります。研究者は値をトリミングしたりウィンズライジングしたりしますが、推定対象が変わり、本当のストレス局面を消すこともあります。未加工の分布、外れ値ルール、妥当な別の処理に対する感度を報告してください。別のボラティリティ尺度は価格変動を分けて把握するのに役立ちますが、ボラティリティを調整してもILLIQが直接的な約定コスト推定に変わるわけではありません。
集計方法と頑健性確認が結果を左右する
上の式では、対象となる各日の比率を計算してから、すべての日に同じ重みを付けて平均します。絶対リターンの合計を総売買高で割ると売買高の多い日の重みが増え、別の統計量になります。同様に、銘柄別比率の単純平均と時価総額加重の市場系列は異なります。正確な集計ルールを明記してください。
期間の長さも重要です。年次平均は短期のストレスをならす一方、流動性の変化を隠す場合があります。短い期間はノイズが多く、売買高の少ない一日に左右されやすくなります。事前に決めた期間と小区間を比較し、日次系列を確認し、望ましい順位が出る期間を選ばないでください。予想非流動性を調べる場合は、未来の情報を使わずに過去の観測と将来の保有期間を結び付けるルールを決めます。
有用な確認項目には、別のリターン定義、通貨と取引時間の統一、データ品質のしきい値、極端値への感度があります。横断面分析では、生存者バイアス、上場廃止銘柄、取引所のカバレッジ、対象銘柄の変更を記録してください。リターン検証に用いるなら、推定期間と評価期間を分け、多数の仕様が試された可能性も考慮します。
ILLIQは過去の代理指標として報告し、執行可能な気配やシグナルと呼ばない
再現可能な報告では、公式、リターンの定義、売買高の通貨、倍率、頻度、日付範囲、対象日のルール、集計方法、データ提供元や取引所の範囲、外れ値とコーポレートアクションの扱いを示します。単一の平均が大きなばらつきを隠す場合は、有効な観測数と分布または感度の幅も報告します。統計量が単一銘柄、ポートフォリオ、市場全体のどれを表すか明記してください。
「ドル売買高に対する過去の絶対価格変動」や「低頻度の非流動性代理指標」といった表現が適切です。結果を気配スプレッド、1ドル当たりの因果的インパクト、特定注文のコストと呼ばないでください。注文判断には現在の気配、板の厚さ、注文サイズ、約定データ、手数料、取引所ごとの条件が必要です。リターンについて主張する場合は、現実的なコストを含め、データ・スヌーピングを考慮した標本外の設計で検証します。
ILLIQは、データが答えられる範囲の問い、つまりこの標本で日次価格変動が日次ドル売買高に対してどうだったかを調べる場合に役立ちます。価値は透明で比較可能なデータ構成から生まれます。これだけで流動性を完全に観測したり、価格変動の理由を特定したりすることはできず、流動性プレミアムや利益の出る売買ルールを保証するものでもありません。
よくある質問
Q1ILLIQはビッド・アスク・スプレッドと同じですか?
いいえ。スプレッドは気配値または取引価格に対する価格差です。ILLIQは日次絶対リターンをドル売買高に対して平均するため、異なるデータを使い、流動性の別の側面を表します。
Q2ILLIQは100万ドルの注文の価格インパクトを推定しますか?
いいえ。売買高の倍率を掛けるのは過去の日次統計量の単位を変えるだけで、特定注文による価格変化を制御して推定するものではありません。注文の売買方向、サイズ、時点、板の厚さ、取引所、市場状況が関係します。
Q3ILLIQが高いと、その銘柄の将来リターンも高くなりますか?
いいえ。Amihud(2002)は歴史的な標本で関係を報告しましたが、別の時期や市場でプレミアムが生じる保証はありません。ボラティリティや情報に起因する価格変動でも比率は上がります。
Q4売買高ゼロの日はILLIQをゼロにすべきですか?
いいえ。売買高がゼロの場合、比率は定義できません。対象日と欠損データのルールを定め、影響する観測数を報告し、その選択で結果が変わるか確認してください。
出典
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問題 01
ILLIQの日次項では何を何で割りますか?
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