政府の借入は民間投資を圧迫するのか
政府の借入が貯蓄、金利、需要、生産性を高める公共事業を通じて民間投資に及ぼす影響を解説します。結果が景気や政策などの条件に左右される理由も確認します。
このガイドの内容民間投資のクラウディングアウトとは
短い要約
政府の借入によって国民貯蓄が減る、資金調達費用が上がる、あるいは限られた労働者や資材をめぐる競争が起きると、民間投資が減ることがあります。ただし、財政赤字が増えるたびに一定額の企業投資が自動的に押し出されるわけではありません。結果は、経済にどれほど余剰能力があるか、金融政策がどう反応するか、家計が貯蓄を増やすか、海外資金を利用できるか、政府が何に支出するかによって変わります。
民間投資のクラウディングアウトとは
マクロ経済学でいうクラウディングアウトとは、政府の行動によって、そうした行動がなかった場合と比べて民間活動が減ることです。「民間投資のクラウディングアウト」は通常、事業投資や住宅投資が、政策がなかった場合の反実仮想の経路より小さくなることを指します。これは起こりうる影響を表す言葉で、予算発表からそのまま読み取れる会計項目ではありません。
一般的な長期の説明は、民間貯蓄と公的貯蓄から始まります。単純化した閉鎖経済では、国民貯蓄は民間貯蓄と公的貯蓄の合計です。財政赤字が拡大すると、公的貯蓄は減ります。民間貯蓄がその減少を十分に補わなければ、投資に使える国内資源が少なくなります。貯蓄と投資の均衡を保つために金利が上がり、期待収益が資金調達費用を上回らなくなった事業を、企業が延期または中止することがあります。資本ストックが小さくなれば、将来の生産や生産性を抑える可能性があります。米国の長期分析で、議会予算局(CBO)は連邦政府の借入が長期に続く場合の潜在的な結果の一つとして、この経路を説明しています。{source:cboFederalDebtCrowdingOut}
この因果の連鎖には複数の段階があり、どれも決まった比率で自動的に進むわけではありません。政府が、工場建設用にすでに確保されていたとラベルの付いた資金の山を取り上げるわけではありません。家計、企業、銀行、年金基金、海外投資家、中央銀行は、状況の変化に応じてさまざまな資産を選びます。政府債務は資産の供給や相対的な魅力を変え、支出は所得と需要を変え、借り手は判断を調整します。実際の反応は、こうした判断がどう組み合わさるかで決まります。
何と比較する主張なのかを明確にすることも大切です。企業の投資額が実際には増えていても、政策がなかった場合の基準経路に比べれば少ないことがあります。反対に、景気後退中に総民間投資が減っても、政府借入とは無関係な理由かもしれません。「クラウディングアウト」とは、観察された経路と推定された別の経路との差を主張するものです。そのため、基準シナリオ、期間、投資の種類が重要です。
長期の資金調達経路が働く仕組み
民間貯蓄や海外からの資金流入が完全には調整しないまま、政府が継続して借入を増やすとします。国民貯蓄が減れば、長期資金に対して投資家が求める実質利回りに上昇圧力がかかる可能性があります。企業は新しい設備、建物、ソフトウェア、住宅などが生むと見込む収入や生産性と、その費用を比べます。採算ラインに近い事業は社内の最低収益率を満たせなくなり、予定していた設備投資が削られることがあります。
影響は積み重なる可能性があります。企業が設備の更新や生産能力の拡大を先送りすれば、将来、労働者が使える資本が減ることがあります。反実仮想と比べて資本ストックが小さくなり、生産性が低下し、賃金や生産が長期的に抑えられる可能性もあります。これは長期的に起こりうる経路の説明であり、財政赤字が発生するたびに測定された投資やGDPが直ちに減るという主張ではありません。
民間貯蓄の反応も重要です。将来の増税を見込んで貯蓄を増やす家計もあれば、現在の所得をより多く使う家計や、借入制約に直面する家計もあります。民間貯蓄が十分増えれば、公的貯蓄の減少を一部またはすべて相殺できます。この反応の大きさは、家計、政策、期間によって異なるため、経済学者の見方は分かれています。反応が必ずゼロだとも、必ず一対一で相殺するとも考えるべきではありません。
金利を動かすのは国内政府の借入だけではありません。予想インフレ率、中央銀行の政策、生産性、需要、安全資産への世界的な需要、世界の貯蓄、投資家のリスク評価も金利に影響します。財政赤字の拡大と利回り上昇が同時に観察されても、上昇分のすべてを赤字が引き起こしたことにはなりません。因果関係を推定するには、借入の変化を、金利や投資に影響する他の動きから切り分ける必要があります。
国債利回りが民間プロジェクトの資金調達費用とそのまま一致するわけではありません。企業向け融資には信用スプレッドや手数料が上乗せされることがあり、内部留保を使う場合にも機会費用があります。予想インフレ率と融資の期間も関係するため、名目利回りの変化が、プロジェクトに必要な実質的な最低収益率を同じ割合で変えるとは限りません。
短期には違う影響が表れる理由
工場、労働者、その他の資源が十分に活用されていないとき、政府購入は企業の商品やサービスへの需要を増やすことがあります。売上の増加に応じて企業が雇用や投資を増やせば、短期には民間活動の一部がクラウディングインされる可能性があります。需要の増加が新規投資を保証するわけではありません。企業は既存の生産能力で対応したり、現金を貯めたり、売上増がすぐに終わると考えたりするかもしれません。それでも、需要の弱さが企業の投資を控えさせることがあるため、需要の経路も分析に含める必要があります。
経済がほぼフル稼働していると、需要の追加は限られた労働者、建設資材、機械、エネルギーをめぐる競争につながりやすくなります。物価や賃金が上がり、インフレ圧力に対して中央銀行が対応することもあります。その結果、金利や投入コストが上がり、民間事業の一部が難しくなることがあります。同じ支出の変化でも、景気後退中、供給が滞っているとき、経済が能力いっぱいで稼働しているときでは、短期の影響が異なる可能性があります。
借入の増加につながる政策の種類も重要です。現金給付、一時的な減税、通常の政府購入、慎重に選ばれたインフラ事業では、需要や将来の生産能力への影響が異なります。金融政策も、資金調達環境を変えることで需要への影響を一部相殺することがあります。CBOのあるモデル研究では、債務増加に対する民間投資の短期的な推計反応は、財政政策と金融政策のどちらからショックが来たかで変わりました。この研究は、債務は常に投資を押しのけるという普遍的な短期ルールを支持していません。{source:cboDebtCrowdingOutModel}
このため、クラウディングアウトと財政乗数は別の問いに答えます。乗数は、定義された財政措置に対する産出の反応を、定めた期間について測ります。クラウディングアウトは、民間活動、特に投資が反実仮想より減ったかを問います。二つの効果は同時に起こりえます。需要が現在の産出を高める一方、資金調達経路が後になって一部の投資を減らすことがあります。財政乗数が測るものもご覧ください。
公共事業が民間投資を補完することもある
政府の借入は、消費や移転だけでなく、インフラ、研究、教育、その他の公共資本にも使われます。信頼できる港は輸送費を下げ、交通網は労働者と顧客を結び、電力網は民間設備の生産性を高めることがあります。公共資産によって民間事業の期待収益が上がれば、公共投資と民間投資は互いを補完します。
結果は事業の価値、時期、実行、資金調達に左右されます。事業は民間建設業者も必要とする技術者、土地、セメント、機械を使うため、短期には希少な投入物をめぐって競合することがあります。生産的な資産になるまで何年もかかったり、予算を超過したり、本当の需要に応えられなかったりする可能性もあります。「投資」と呼ぶだけで、生産性が高まる、または費用を回収できると証明されるわけではありません。
CBOによる米国の二つの例示的なインフラシナリオは、両方の経路を考える必要性を示しています。一つのシナリオでは、インフラ支出を非投資目的の購入削減で相殺し、マクロ経済の波及効果を考慮する前の財政赤字は変わりません。別のシナリオでは、追加の借入で支出を賄います。後者では、短期の需要増加とその後の生産性向上に、赤字拡大による民間投資の段階的な減少が組み合わさります。CBOは、結果が政策の組み合わせと前提条件に左右されると強調しています。これらのモデル推計は、あらゆる国や事業に当てはまる一般的な乗数ではありません。{source:cboInfrastructureCrowdingOut}

海外資本と金融市場も経路を変える
開放経済では、国内投資は国内貯蓄だけで賄われるわけではありません。投資家は外国資産を購入でき、海外投資家は国内の国債や企業の証券を購入できます。そのため国民貯蓄が減ったとき、外国の貯蓄を利用すれば、国内民間投資への圧力が和らぐことがあります。ただし資金調達が無料になるわけではなく、対外的な立場や将来の所得支払いが変わりえます。国民経済計算における貯蓄、投資、経常収支の比較は、これらの関係を示しますが、観察された一方の赤字が他方を引き起こしたとは示しません。国ごとの対外収支には、別途その国に合った指標と定義が必要です。ストックとフローの違いについては財政赤字と政府債務の違いをご覧ください。{source:beaInternationalAccountsConceptsMethods}
米国の例が示すのは可能性の一つで、普遍的な規則ではありません。CBOによると、米国の金利上昇が海外資金を呼び込むため、連邦政府の借入増加に伴うとされる国内投資の減少の一部を、外国資本が補う可能性があります。その規模は世界情勢と投資家の判断によって変わります。他国では、為替リスク、市場へのアクセス制限、規模の小さい国内市場、自国で発行できない通貨での借入が制約となる場合があり、資金調達経路は大きく異なります。{source:cboFederalDebtCrowdingOut}
「クラウディングアウト」には、より狭い金融市場での使い方もあります。銀行などの貸し手がバランスシートや資金調達の制約を抱えながら政府債務の保有を増やすと、広く見た国債利回りがほとんど変わらなくても、民間企業が融資を得にくくなることがあります。この銀行貸出経路は、国民貯蓄による長期的な仕組みとは別です。重要性は、銀行制度、規制、担保のルール、政府の借入条件によって変わります。
簡単な事業の例
あるメーカーが100万ドルの機械を買おうとしているとします。その想定では、機械は資金調達費用を差し引く前に、年6.5%の収益を生む見込みです。関連する資金調達費用が6%なら、社内の採算基準を満たす可能性があります。費用が7%に上がれば、経営陣は購入を延期したり、資金の別の使い道を選んだりするかもしれません。ここでの金利と収益率は、資金調達費用が投資判断に影響する仕組みを示すためだけの仮定です。
この例から、政府の借入によって企業の費用が6%から7%に上がったとは言えません。その因果関係を示すには、借入、市場金利、企業の調達条件、売上予想、金融政策、その他の要因がどう変わったかの証拠が必要です。需要の増加、公共事業による期待生産性の向上、内部留保の活用などを理由に、企業は投資を進めるかもしれません。金利が下がっても売上が弱いと見込めば投資しない企業もあります。資金調達費用の例は仕組みを示すもので、マクロ経済の結果を証明するものではありません。
クラウディングアウトの主張を評価する方法
見出しを信じる前に、何が押し出されたと主張しているのかを確認しましょう。民間固定投資、住宅、銀行融資、消費、その他の活動でしょうか。次に、その主張が短期と長期のどちらを指すのか、分析がどの反実仮想と比べているのかを調べます。建設支出、企業設備、住宅投資、民間投資全体の変化は、それぞれ異なる事情を示すことがあります。
経済の余剰能力、民間貯蓄、金融政策の反応、外国資本、政府支出の構成について、情報源がどのような前提を置いたかを確認します。数値が過去の推定なのか、経済モデルの結果なのか、特定の政策パッケージを想定したシナリオなのかも見分けましょう。モデルの結果は、その構造と入力条件に左右されます。一国の過去の推定値が、別の国や時代にも自動的に当てはまるわけではありません。
最後に、予算の指標を混同しないようにしましょう。財政赤字は一定期間のフローであり、政府債務は時間とともに累積するストックです。どちらも単独では、どれだけの民間投資が押し出されたかを示しません。関連する概念については財政赤字と政府債務の違い、債務の対GDP比、需給ギャップと潜在GDPをご覧ください。
よくある質問
Q1財政赤字があれば、必ず民間投資は押し出されますか。
いいえ。特に国民貯蓄が減り、資金調達費用が上がる長期など、条件によって赤字がクラウディングアウトに寄与することはあります。短期の需要、民間貯蓄、海外資本、金融政策、支出の種類によって結果は変わります。
Q2政府投資が民間投資を呼び込むことはありますか。
役立つ公共資産が民間の生産性を高めたり、企業と労働者、供給業者、顧客をつないだりすれば、その可能性があります。ただし効果は保証されず、事業の質、時期、維持管理、資金調達、投入資源の不足が関係します。
Q3金利が上がれば、政府借入が投資を押し出した証拠になりますか。
いいえ。金利はインフレ期待、金融政策、生産性、世界の貯蓄、安全資産への需要、リスクにも反応します。因果関係を示すには、こうした影響を切り分け、比較対象を明示した分析が必要です。
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問題 01
「民間投資のクラウディングアウト」は通常、何を指しますか。
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